運動会が近づくと、先生方は学年の運動会プログラムを考え始めます。中でも、いろいろな意味で注目されるのが表現運動ではないでしょうか。事前準備や練習に一番時間がかかるのも表現運動、そして会場が一番盛り上がるのも表現運動だからです。
私は初任から10年間連続で表現運動の役割をいただき、毎年子どもたちと一緒に作品を作り上げてきました。11年目からは、若手の先生のサポートやアドバイスをする役割にまわり、最後の学級担任の年には、完全に裏方に回って指導補助を行うようになりました。少しずつ立ち位置を考えながら実践をしてきました。
ここでは、表現運動の作り方や、計画の進め方について簡単に説明しています。
が・・・、これはとても奥が深い内容ですし、仕事の範疇を超えて趣味の範囲になってしまう部分もある内容なので、より簡略化した内容だけをお伝えしています。文章だけでどうにか説明できるものではありませんし、実際の映像資料や計画書、プレゼンを通して説明するものであります。僭越ながら、先生方対象に研修会を行うことがあり、資料などもございます。より詳しく知りたい方はご連絡いただけると幸いです。
1.参考としての実績
まず、サイト運営者の福来はいったいどんなことをしてきたのかが重要である気がします。
私の経歴を見ていただき「まだまだ」と思われた方は、豊富な実践経験をお持ちであるであること間違いなしでございます。この内容を温かく見守っていただけると幸いです。
初 任 3・4年生 ソーラン節
2年目 5・6年生 組体操
3年目 5・6年生 組体操
4年目 5・6年生 組体操
5年目 5・6年生 スタンツ・組体操
6年目 5・6年生 スタンツ・組体操
7年目 5・6年生 表現運動・スタンツ・組体操
8年目 5・6年生 表現運動・スタンツ・組体操
9年目 5・6年生 表現運動・スタンツ・組体操
10年目 5・6年生 表現運動・スタンツ・組体操
11年目 5・6年生 表現運動(若手の先生のサブ)
12年目 5・6年生 表現運動(若手の先生のサブ)
13年目 5・6年生 表現運動(完全サブ)
14年目 学級担任じゃなくなりました(笑)
ざっとこんな感じです。5・6年生(というかほぼ6年生)に偏っているので、内容も高学年向きになっていることをご了承ください。ただし、自分が低学年や中学年を指導するときにでも、絶対に変わらないと思うものをお話していきます。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、「組体操」から「スタンツ」や「表現運動」といった言葉が出てきていると思います。これはそれぞれの学校や地域によって、運動会での演技に対する呼び名が違うということからきています。厳密にいうと、「組体操」「スタンツ」「表現運動」には確かな違いがあるのですが、どれも「運動会の中でやる演技」には変わらないので、だいたい同じものと思っていただいて結構です。ここでは、一貫して「表現運動」と表記させていただきますね。
2.はじめに
表現運動は、内容に限らずよっぽどのことがない限り、必ずいい形で終えることができるすばらしい活動の一つです。運動が大嫌いな子も、運動が大好きな子も、どちらでもない子も、この行事を通して少しでも「よかったな」と思ってもらえるように工夫していくことが大きなめあてになるからです。何かにチャレンジできたり、前向きになれたり。はたまた単純に楽しみを感じたり、何かを乗り越えることができたり。汗を流して健康的になれたり、友達との関わりが広がったりするのも、立派な成果の一つになります。ですから、「良い作品を作ろう」と考えるのではなく「子どもたちが良かったと思えるものを作ろう」ということを考えていくいくことが基本になります。ですから、他者から何と言われようが、「子どもたちが輝いていた」のであればそれはもう、大成功なのです。
一方で、「感動させよう」と思って作った作品は、終わってみると感動しているのは制作者だけなんてなことはよくある話。熱くなって涙しているのは教師だけで、意外と周囲は冷めて見ているというのもよくあります。そこで子どもとの熱量の差が生まれているわけです。もちろん、制作者が情熱をもって取り組めば、たいていはしっかりと返してくれるのが子どもたち。(子どもは優しいです笑)情熱がなければ、指導も続きません。情熱は必要です。だからこそ、先生だけが己の作品に酔った状態にならぬよう、子どもと先生、そして観客全員が、心が温かくなるようなものに仕上げられるといいですね。
3.まず何をしたらよいのか
結論から言うと「テーマ決め」です。表現運動のタイトルなどは、子どもと一緒に考える場合があるので、状況に応じて合わせていきますが、そもそも制作者である「私」がどんなテーマをもってこの演技を作るのかが一番のポイントです。すべてはそのテーマに沿って流れてゆくからです。このテーマがぶれていたり、そもそもテーマなどない状況になると、なんとも軽薄な演技に見えてしまいます。(わたしだけかもしれませんのでご注意を!)
私は毎年3月末には表現運動のテーマを決めていました。もちろん、自分がまだ何年生になるかなどは分かっていません。しかし、大体予想はできますし、もし違っていたらそれまでの話なので、先に来年度の5・6年生の実態をよく見て観察しておいて、テーマを絞り込んでいました。
4.テーマに沿ったプログラムを構成する
自分のテーマが決まったら、どんな表現をするのかの脚本を書きます。どの場面で何を表現したいのかを明確にするためです。表現の内容によって曲選定が変わってくるので、プログラム構成は重要です。私は毎年10程度の場面を構成していました。(コロナ禍の2020年は7場面でした)。
また、構成が指導の日程とリンクしていくので、練習計画が必然的にできあがります。運動会前に決定した「運動会練習日程」と照らし合わせて、いつ何を指導するのかをしっかり決めておきましょう。さらに言えば、この練習日程も大事な要素になります。適当に練習計画を組んではいけません。演技するのは子どもですから、子どもの心の動きを予測して日程を組んでいきましょう。体育館の使用割は、自分たちの思い通りにできるものではありません。雨の日や何か都合がつかなくなった日のことも十分視野に入れながら、できる中で最高の流れにしていこうと意識することが大切です。
「運動会当日に最高の形ができていればよい」はもったいなすぎます。標準を運動会当日にするのではなく、その日の練習をたった一度きりのかけがえのない時間として経験させてあげましょう。演技者の心は表現に直結します。子どもたちの心が高まることで、演技の質も見る見るうちに高まっていきます。毎時間毎時間、最高の形で終われるように計画を組んでいきましょう。
本番はあくまでフロクです。
5.曲選定と表現選定
プログラムが構成できたら、次は「曲選定」と「表現選定」に移ります。「表現に合わせた曲を選んでいく」ということです。表現というのは技のこと。一つの技を決めるのに何秒かかるかを実践と経験から予測し、そのタイミングに合った曲を選びます。
もちろん例外もあります。今年の子たちのテーマにドンピシャであっている曲が先に見つかった場合は、曲から構成を考える場合もあります。また、今年の子たちの実態にピッタリ合う演技が見つかり、そこから曲を合わせていくこともあります。なので、この順番が前後することもあります。
「表現」は実際に動きながら、本当にできるかを確認して選定していきます。「難しそうだけどやってみると案外楽」や「簡単そうに見えて難しい」などは、演技選定では日常茶飯事。経験が多くなれば、そのあたりの細かな部分は分かってきますが、新しいものを取り入れるときは必ずやってみるようにしていました。実際にやりながら、表現するときの子どもの心理を考え、指導に生かせるようにしていきます。ここで実際にやっておくと、そのときの心理がわかるので、指導中に子どもの心に刺さる的確な指導ができるようになります。作りながら指導するポイントが見えてくるので、「何を指導したらよいのか」「どんなことをポイントに伝えればいいのか」などの迷いがなくなっていきます。子どもの前に立った時、自然と的確な言葉が頭に浮かんできます。そこに端的に伝える意識を加えれば、指導は完成です。
6.曲編集
曲編集は必須です。演技する子どもが気持ちよく表現できる、そしてその世界にのめりこめるようアレンジを加えます。ここでの編集が、実際に演技指導に入ったときに大きく影響してきます。尺が短すぎると技術的に無理が出てしまい、子どもやる気がそがれ、結局後で修正を加える羽目になる。反対に尺が長すぎると、だらだらとした演技になりメリハリがなくなる。よって、練習中に余計な指導が増える結果を招きます。頑張って到達できる尺、そして決して無理のない尺を見つけていきます。
また、子どもが中心なのは当然ですが、わざわざ運動会を開いているということは「お客さん」がいるわけです。そのお客さんと一体感を味わえるよう、曲の始まりや終わりのタイミングを編集したり、音量を調整したりしていきます。また、プログラムのつながりが心地よく聞こえるかどうかも意識しながら編集します。一つ一つの演技の後には必ず拍手をしてくださるので、その余韻に浸りながらも、次にすぐに気持ちが切り替えられるようなタイミングを模索していきます。
7.全体構成の確認
「テーマ」「プログラム」「曲選定」「表現選定」「曲編集」が決定したら、全体が本当にできるのか実際にやってみましょう。集団行動はさすがに無理ですが、ある部分をやってみることで、大体の予測がつきます。「全体的にうまく流れている」と思えるまで何度も「プログラム」「曲選定」「表現選定」「曲編集」を練り直しましょう。
8.計画書の作成
表現運動は一人では絶対にできません。学年の先生の協力が必須です。事前にクラスで決めてきてもらうような内容があるならばなおのこと緻密な計画が必要です。担任の先生が安心して練習に参加できるように、細かな視点も含めた全体計画書を作成しましょう。ちなみに私の場合は
1.表紙
2.目次
3.テーマとねらい、学校教育目標と演技とのつながり
4.プログラムと構成
5.練習日程計画(運動会のすべての活動とリンクしたもの)
6.曲と技とのリンク表、隊形図、グループ分け表(すべての演技について)
7.演技特集(技を図解したり、絵で示したりしてポイントを示したもの)
8.裏表紙
上記の1~8で製本し、クラス用CDをつけて、本番の約2か月前に関係の先生に配っていました。
春に運動会がある場合(5月)は、4月の始業式のある週の最後の日にブロック会を開かせてもらい、そこで計画書を渡していました。秋に運動会がある場合には、7月中に計画書を配っていました。計画書を配ったときの気持ちは、「先生方、私ができるところはすべてやるので、クラスで決めておかなくてはならない部分をよろしくお願いいたします。何かあったらすぐさま口出しをお願い致します。」といったところでしょうか。
9.さいごに
いかがだったでしょうか。
表現運動をする先生の心理は大きく分けて3つに分かれていると思っています。
①やりたい。
②やりたいわけではないが、そんな立場。だからやる。
③やりたくないが、やれといわれたからやらなければいけない。
①②は問題ないです。自分なりにやると決めているところからスタートしているからです。
問題は③です。この立場の先生はとても苦しい状況におかれています。そもそも情熱が沸いてこないからです。情熱が必要な「表現運動」を指導する立場の先生に情熱がないのは、子どもにとっても先生にとっても苦しいものです。
でもやりたいものばかりではないのも現実。というかこの仕事はほとんどがそうです。
本当に無理なら、先生方に相談してみましょう。最近では、誰かが一人で計画や制作をしたり、一人がずっと壇上に立って指導をしたりすることの方が少なくなってきました。多くの先生方で指導や計画、準備を進めています。ですから、みんなでやれば負担も少ないです。みんなと相談しながら進めていくのが望ましいでしょう。
やってみると、案外自分の成長に驚いたり達成感を感じたりするものですよ。初めは何でも生みの苦しみ。自分で線路を作って進んでみると、恐ろしいほどに自分が鍛えられていることがわかり、他の仕事でも効率よく仕事ができたり、つまらないとおもっている仕事も、案外価値や楽しみを見出せたりできるようになります。悪いことばかりではないです。
はじめにお伝えしたように、「表現運動」の価値は、作品の良し悪しはあまり関係がありません。指導者が、目の前にある時間を大切にして過ごしているかいないかが一番影響するものです。「この時間少しでも子どもたちの、そして自分の人生のよい機会になればいいな」と思ってやってみてはいかがでしょうか。結果的にお互いにとって良い時間になること間違いなしだと思います。
幸い、私は本当に学年の先生に恵まれていたので、各先生方が完璧にクラスでの決めごとをしてきてくださいました。また、先輩の先生方も、私の指導を温かく見守ってくださいました。その支えがあっての13年間です。
皆さんの周りにも支えてくださる先生方がいらっしゃるはずです。
少なくとも私は、先生というお仕事をされている方を、このサイトを通して心より応援しております。